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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)11639号 判決

原告

学校法人天羽学園

右代表者理事

鎌田昌宏

右訴訟代理人

輿石睦

外三名

被告

右代表者法務大臣

奥野誠亮

右指定代理人

東松文雄

外一名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金二三九七万一二四〇円及びこれに対する昭和五一年一一月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  主文同旨

2  担保を条件とする仮執行の免脱の宣言

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、千葉地方裁判所木更津支部昭和五一年(ケ)第四〇号任意競売申立事件において、同年一〇月二五日、別紙目録記載の土地二筆(以下、この二筆の土地を本件土地といい、目録一の土地を本件土地一、同二の土地を本件土地二という。)を、最低競売価額どおり合計代価三一三四万五〇〇〇円で競落し、同年一一月二日、競落許可決定は確定し、原告は、右代価を納付した。

2  右競売事件において、同裁判所支部執行官宮内正義は、本件土地の評価を命ぜられ、本件土地の評価額は二筆合計三一三四万五〇〇〇円であるとの評価書を提出し、同支部は、右評価額を最低競売価額と定めた。

同評価書には、本件土地は、国鉄木更津駅より直線距離で2.1キロメートルの地点に位置し、隣接地は広範囲にわたつて大規模な宅地造成がなされており、将来住宅街として大いに発展するものと思料されるとし、目的物件には幅員約六メートルの未舗装道路が通じており、現在は眺望の開けた景色の良い高台となつているとの説明があり、本件土地一の評価額は三〇九七万五〇〇〇円、本件土地二の評価額は三七万円、合計三一三四万五〇〇〇円と記載されている。

〈以下、事実省略〉

理由

一請求の原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

二右争いのない事実と〈証拠〉によると、原告は、昭和五一年五月一一日設立された学校法人で、湊つくし幼稚園を設置経営しているが、同年春ころから高等学校の設置を計画し、本件土地とその隣接地の木更津桜井の土地が高台で環境が良く教育に適すること、国鉄木更津駅から車で一〇分程度の距離にあり交通に便利であること、これらの土地は市街化調整区域であつて地価が安く、幅員六メートルの公道へ通ずる幅員六メートルの道路があること等を主たる理由として、これを設置予定地として決定したこと、この決定当時、本件土地には根抵当権者君津信用組合、債務者小堀恭、元本極度額二〇〇〇万円の根抵当権が設定されており、競売に付されるとの風評があつたので、本件土地を右予定地とすることにしていたが、その後同年七月二一日、本件土地について任意競売が開始されたこと、原告代表者が君津信用組合で調査したところ、本件土地には幅員六メートルの公道と連なる幅員約六メートルの道路が接続されており道路条件が良いということであり、現地の状況も幅員六メートルの道路が存在していたので、右道路が公道であるか私道であるか、私道の場合通行の権原があるものであるかどうか等の調査はせず、右道路は当然通行の用に供されるものと信じ、この道路が幅員六メートルの公道から学校予定地へ通じる通学路として十分な幅員のある道路として唯一のものであることから、本件土地を競売手続で入手しようと考え、同年九月一一日を過ぎたころ、千葉地方裁判所木更津支部で執行官宮内正義作成の本件土地の評価書を閲覧し、同評価書本文中の「評価物件の所在は右宅地造成にともない同物件に通ずる道路(幅員約六メートルで未舗装道路)ができ現在は眺望の開けた景色のよい高台になつている。」の記載や同評価書添付の配置図に点線で道路の位置が示されていることから、右道路は当然通行の用に供されるものと認識したこと、原告は、同年八月から一〇月にかけて学校予定地の土地所有者から予定地内に含まれる土地の寄附を受け、また、買受けたこと、買受代金は坪当たり八〇〇〇円であつたこと、本件土地の最低競売価額は、宮内執行官の評価書記載の評価額どおり、本件土地一につき三〇九七万五〇〇〇円(坪当たり三万五〇〇〇円)、本件土地二につき三七万円(坪当たり一万円)と定められ、原告は右価額は他の買受土地の代価に比し高額であると認識していたが、前記のとおり本件土地に接続する幅員六メートルの道路が学校予定地から幅員六メートルの公道に連らなる唯一の道路であることと学校の開校時期の関係で早期に土地を取得する必要があつたので、同年一〇月二五日の競売期日において、競買の申出をした者は原告以外になかつたが、右最低競売価額で競買の申出をし、本件土地を競落し、同年一一月二日、競落許可決定は確定し、原告は右代価を納付したこと、その後原告が右道路を使用して学校建設工事を始めたところ、右道路のうち幅員約四メートルの私道部分の所有者が原告の右私道部分の使用について異議を述べたため、原告は右道路のうち幅員約二メートルの公道部分の通行しかできないことになり、これのみでは通学路としても不十分であるので、原告は隣接する木更津市請西第一土地区画整理組合から土地を買受けて、通学路を開設したことの事実が認められ、これを覆えすに足る証拠はない。

以上の事実によると、原告は、本件土地の最低競売価額が本件土地の隣接地で学校用地として買受けた土地の価格に比しかなり高額であることを十分承知しながら、本件土地が六メートルの公道から学校用地に通じる通学路として十分な幅員のある唯一の道路に接続していたことから学校用地として必要欠くべからざる土地として、これを競落することを決定したものであること、原告は、本件評価書を閲覧する前に、すでに君津信用組合での調査と現地調査により現状も幅員六メートルの道路があることを認識していたが、この道路が公道であるか私道であるか、私道であれば通行する権原があるかを確認する手段をとらず、慢然通行が可能であると思つていたことが認められる。

一方、〈証拠〉によると、本件評価書には、前記のとおり、その本文中に右道路についての記載があり、その添付の配置図によると幅員約六メートルの右道路は南北に延びる二本の点線で表示されているが、その西側の点線は、一五四二番一、同番二、本件土地二の三筆の土地の東側境界を示す実線の西側すなわち右三筆の土地内に入つて記されており、右三筆の土地の東側境界は道路様の南北に延びる細長い土地に接しており、右道路を示す点線はこの細長い道路様の土地をはさんで東側と西側に引かれていること、同評価書に添付されたもう一枚の図面である平面図は、右配置図から右道路の示す点線が除かれた図面であるが、そこには、一五四二番一、同番二、本件土地二の東側境界に接する前記の南北に延びる細長い道路様の土地を公図上の道路と表示してあり、この両図面を対比すれば、配置図に示された幅員六メートルの道路は、幅員が六メートルに満たない公道とその余は私有地からなる道路であることが容易に看取できることが認められるのであつて、原告が、この評価書を閲覧しながら、従前の調査の結果から得ていた右道路が当然通行の用に供されるものと認識を改めなかつたことは、従前の調査の結果による先入観に災いされ、注意を怠つたことによるものといわざるをえない。

そうすると、原告が本件土地につき、その最低競売価額が本件土地の隣接地で学校用地として買受けた土地の価格に比しかなり高額であることを認識しながら、競買の申出をするに至つたのは、本件評価書を閲覧する以前の調査の結果から得ていた認識に基づいてなしたものであり、本件評価書を閲覧してその認識を訂正できなかつたのは原告の不注意によるものであつて、本件評価書の記載内容によるものでないから、本件評価書の記載内容と原告の競買の申出ひいては本件土地の競落との間には、法的に因果関係があるということができないから、この点ですでに原告の請求は理由がないといわざるをえない。〈以下、省略〉

(牧野利秋)

目録〈省略〉

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